第163回芥川賞、直木賞の候補者と作品が、
2020年6月16日付で発表されました。
芥川賞には、2016年に亡くなられた
作家津島佑子さんの娘で太宰治の孫にあたる
劇作家、石原燃さんが入っていました。
（デビュー小説「赤い砂を蹴る」）
いやー、お孫さんが芥川賞候補ですか。
太宰治と芥川賞には、有名な因縁、
エピソードがありますね。
候補作家の群像、太宰治
https://prizesworld.com/akutagawa/kogun/kogun1DO.htmそう太宰治は、「逆行」で、
第1回芥川賞（昭和10年/1935年上期）の候補となりました。
そしてその結果は、落選。
受賞したのは、「蒼氓（そうぼう）」の石川達三でした。
https://prizesworld.com/akutagawa/jugun/jugun1IT.htm太宰は、落選後、選考委員の一人で、
太宰を高く評価していた作家佐藤春夫に、
受賞を懇願する手紙を送っていたことが
知られています。
「家のない雀 治」との署名で、
「芥川賞をもらへば、私は人の情で泣くでせう」
との手紙です。
そうした手紙をもとに佐藤春夫は、
「芥川賞―憤怒こそ愛の極点」との作品を出しています。
（太宰はその前に「創生記」で、佐藤が芥川賞をとれると
言ってくれたと記している。しかし佐藤は、「芥川賞―憤怒こそ愛の極点」
の中で、そうした言質を否定）
その作品の中での表現が余りにも直接的だったため、
佐藤の創作ではと考えられていたのですが、
2015年に新たに太宰が佐藤にあてた手紙が、
3通発見されました。
すでに明らかになっている手紙の
8日前、第2回の選考会の直前のものには、
「私は、きつと、佳い作家に成れます。御恩は忘却いたしませぬ」
「第二回の芥川賞は、私に下さいまするやう、伏して懇願申しあげます」
「佐藤さん、私を忘れないで下さい。私を見殺しにしないで下さい。
いまは、いのちをおまかせ申しあげます」
「あとは、しづかに、天運にしたがひます」
と、佐藤の作品の中の表現がそのまま書かれていたのです。
この当時、太宰治は26歳、
デビュー間もない頃で、腹膜炎の
治療に使った鎮痛剤中毒に苦しんでいました。
その薬代のため借金をし、経済的に困窮。
芥川賞を受賞することで文壇に認められ、
さらに当時の賞金500円が必要だった
という事情があったようです。
まあ何よりも太宰が敬愛し、
アイドル的存在だった芥川龍之介の
名前がついた賞が欲しかったんでしょうね。
残念ながら、第2回は受賞者なし。
太宰は第1回の時の選考委員の川端康成の
「才能は感じるけど……。太宰は私生活に問題がある」との線描に激怒。
「川端康成へ」と題する反論を公表。
友人、（師匠）井伏鱒二先生も面白かったと評している、
「川端康成は大悪党」「小鳥と歌い、舞踏を踊るのが
そんなに高尚か。刺す」などとする恨み辛みをつづっています。
一方で、第3回選考会前には、その川端にも
受賞哀願の長文の手紙を送っています。
これほどまでに芥川賞受賞を求めていた太宰ですが、
結局、受賞はかなわず生涯を終えました。
6月19日は太宰治が亡くなった命日、桜桃忌。
それには間に合いませんが、少し遅れて、
7月15日の選考会で、太宰治の墓前に孫の朗報が届くのでしょうか。
《6月19日 太宰治没後70周年 太宰を愛し、太宰をモデルに
小説を書いた佐藤春夫の追悼文の内容とは
『太宰よ! 45人の追悼文集 さよならの言葉にかえて』より》
http://web.kawade.co.jp/bunko/2092/《稀有の文才 佐藤春夫
芥川賞の季節になるといつも太宰治を思い出す。
彼が執念深く賞を貰いたがったのが忘れられないからである。》
2020年6月17日、追記
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テレビなどで放送されたのがその理由のよう。
〇太宰治の次女である津島佑子さん。
3度、芥川賞にノミネートされましたが、
受賞はかないませんでした。
石原燃さんが受賞すれば、祖父、母の
無念をはらすということでしょうか。
候補作家の群像、津島佑子
https://prizesworld.com/akutagawa/kogun/kogun67TY.htm河出書房新社編集部 河出書房新社 2018年06月06日
太宰の佐藤にあてた手紙が収録されている。
太宰治の芥川賞にまつわること、
名作「走れメロス」誕生の裏の
どうかしているエピソードが書かれています。
進士 素丸 KADOKAWA 2019年10月25日